(1) |
組合員は御承知のとおり、一定の出資をなすことによって、その身分を取得し同時に組合の構成員となる者をいいます。
そして、実は組合員の責任はこの出資だけに限られるのであり、組合に対してはそれ以上の負担を負うことはないのです。
中小企業等協同組合法(以下中協法と略称します)第10条4項もこれを明言し「組合員の責任はその出資を限度とする」と規定しています。 |
(2) |
それでは、前述のことは組合が負うに至った債務についても言えるのでしょうか。
次にこの点を考えてみることにしましょう。
例えば、組合自体がある事業活動を行い、その事業によって多額の負債を背負い込んだとします。この場合にも組合員個人は、先に述べたように「俺は既に出資金を納めたんだからそれ以上の責任はないよ」とか、「私はまだ出資金を払込んではいないが、組合の負った負債については、私に課せられた出資金を払い込むだけで、あとは私の知ったことではありませんよ」等と言い逃れて知らん顔をしていてもよいでしょうか。
結論から言いますと、この場合にも先に述べた原則が適用されて、この人達の言い分が通るのです。
前に述べました中協法第10条4項の原則は、国が制定した最高の法規範であり、この原則に反することはできないのです。
組合員はあくまで「出資額」を限度とする責任のみを負うのであり、組合員が組合に対して負う財産上の出損義務はあく迄その額において有限であり、組合員がその額を超えて、財産上の出損義務を負担することはないのです。
これを有限責任と言います。
また、その限度である出資額といいますのは、組合員が出資を引受けた額であり、具体的に言いますと、加入する際に引受けた額のままであることもありましょうし、加入後に他の組合員の持分を譲り受けることもありましょうが、要するに組合員が自らの意思で引受けた出資の額ということです。 |
(3) |
では、組合の出資金や積立金等の所謂組合の全財産を以ってしても、組合の債務を完済できない場合、このような事態は充分に起こり得ることですから予め定款に組合員から特別賦課金のようなものを徴収する旨の規定を設けたり、あるいは総会の決議で、このように組合員から臨時に徴収させることは可能でしょうか。
答えはやはり「否」です。
法規範は憲法を頂点として法律、規則、条例等(規範自体まだまだ沢山ありますが、ここでは言及しません)段階的構造をなしているのであり、上位に位置する法規範は下位の法規範を拘束することになり、逆に言えば下位の法規範は上位のそれに反してはいけませんし、またそれに矛盾する解釈をしてはならないのです。
従って、定款も一種の法規範ですから当然、先の中協法第10条4項に反する規定を設けることはできませんし、また総会もそもそも中協法にその存在の基礎がある訳ですから、その議決内容も当然法の拘束を受けることになるのです。
ですから、前述のような定款の規定や決議自体無効であるということになり、何ら組合員を拘束しないのです。
だがしかし、こうは言いましても、先の中協法第10条4項の規定は、組合員みずからの自由意思によっても「その出資」を上回って負担することを全く禁止する趣旨を有するものだとは考えられません。ですから、当該組合のすべての組合員が同意した場合でもなお負担させることができないという理由はないと思われます。
結局、総組合員の同意がない限り総会の決議をもってしても、すべての組合員に「出資額を上回る損失金額」を組合員の負担すべき金額として強制することはできず、また、定款に規定を設ける場合にも、一定の場合総組合員の同意を以て、先のような決議をすることができるという範囲に止まるものなら、かろうじて有効ということになると思います。 |
(4) |
これに関連し、中協法第20条3項によりますと「組合の財産をもってその債務を定済するに足らないときは、組合は定款の定めるところにより、脱退した組合員に対し、その負担に帰すべき損失額の払込を請求することができる」と規定しています。
ここにいう「その負担に帰するべき損失額の払込云々……」の条項は、先の10条4項との関係ではどのように解釈すべきでしょうか。
組合員はしばしば述べますように、明らかに有限責任ですから、当然、脱退した場合においても、組合に欠損が生じており、且つ、組合に対して未払込出資金額がある時は、未払込出資金額を限度としてその負担に帰すべき損失金額の払込を請求することができるということになります。
勿論、この場合でも定款に損失額払込の規定を設けていないときは、この請求権はないことになります。 |
役員の場合 |
(1) |
役員は中協法第35条に規定するところでありますが、理事及び監事をいい、理事については3名以上、監事は1名以上が必要とされています。
理事の職務権限は業務執行と組合代表であり、監事のそれは組合の業務全般につき監督することを主たる職務とします。 |
(2) |
では、前に考えたところと同様な問題即ち、組合の債務について、役員であるが故に何か特別な責任が課せられるのでしょうか、もしそうだとすれば、どの範囲の責任になるのでしょうか。
役員は通常、同時に組合員であることが大部分でしょうから、第1項で述べましたように組合員として有限責任は負います。これは当然なことです。
組合員としての責任以外に役員であること自体から発生する責任はないでしょうか。
これは後で述べますような特殊な責任以外、原則としてはないのです。
役員の地位にある人は、通常、組合の有力者であり、それなりの力を持った人がその任に当たることが多いでしょうし、また、組合の事業活動上生じた債務については、相応な責任を果す人が多いと聞きますが、それは、法律的な観点からすれば、あく迄その役員個人の道義的観念からそうされることが多いのであり、法律的な義務が課されたのではないと言ってもよいのです(勿論、義務を履行されるべきか否かは法律的問題ではありませんから、ここでは論じません)。
さらに、世上よく見受けられる例に組合が事業活動を行う課程で、役員個人が連帯保証することがあります。
この場合、組合の債務について、結果的には役員個人が、全責任を負うことになります。
しかし、これとても、役員であるが故に必ず連帯保証人にならなければならない訳ではありませんし、仮に保証人になって全責任を追及されるはめになったとしても、それは役員であることから生じるのではなく、あくまで連帯保証という別個な、新たな法律的行為によって生じるものです。 |
(3) |
では、前に少し言いました、役員が例外的に組合の債権者に責任を負うのはどんな場合か述べてみましょう。
中協法第38条の2、同42条によりますと、理事及び監事が、「その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは、その理事ないし監事は第三者に対して損害賠償の責に任ずる」と規定しています。
この第3者の中には、組合の債権者等も含まれることはもちろんです。
このような場合、役員は責任を負うことになる、即ち、早く言えば、お金を払わなければならなくなるということです。
金銭を払うという点からすれば、組合の債務について責任を負うということも結局は金銭を払うことに帰するのですから、結果的には同じかもしれません。
しかし、今、本稿で考えております組合の債務について組合員が出資額の限度で当然責任を負うというのとは、この役員の責任とはその責任の性質が全く異なることに注意して頂きたと思います。
即ち、この場合の役員の責任は、組合員の場合のような有無を言わせない法律上当然の責任ではなく、その本質は損害賠償責任なのです。
役員がその職務を遂行するにつき、へまをしでかし、そのために第3者に多大な迷惑をかけた、だからその制裁として金を払って償えというのです。
この責任については、商法の取締役の責任に関する規定が準用されていますから、1人代表理事のみが負うとは限らず、理事会において、その業務執行に賛成したか、賛成しなくともそれについて積極的に異議を留めなかった全理事についても連帯責任を負わされます。
さらに、注意しなければならないのは、故意又は重大な過失か否か、あるいは、役員の職務遂行について不手際が果してあったと言えるかどうかは極めて徴妙な問題であるので、当事者間で争いになることは当然予想されるところであり、最終的には、裁判所の判断に委ねざるを得ないということです。
会社の取締役に関するこの第3者に対する責任追及もその実効をおさめた例はあまりありません。
(昭和60年3月 20号) |