法律問答集
 一 般
〔時効中断の事由について〕
1、 事務上、よく問題になることに時効はどのような事由があれば中断するのか、というのがあります。
 時効が完成したら権利の実効を収められないことになりますから、時効の進行をストップしなければなりません。
 時効とは、一定の事実状態が永続した場合に、この状態が果して真実の権利関係に合致するかどうかは問わずに、その事実状態をそのまま尊重し、これをもって権利関係と認め、真実の権利者からの権利主張を許さない、とする制度です。
 消滅時効というのは、取得時効とともに時効の一種ですが、権利の不行使という事実状態と一定の期間の継続とを要件として、権利が消滅するというものです。
 時効の中断とは、時効の基礎である事実状態と相容れない事実が生じることによって、進行中の時効が止まることをいいます。
 時効完成の障害といわれています。
 民法は、第147条以下に時効中断の事由に関する規定をおいてます。
 民法にいう中断事由は、大きく分けて3つに分類されます。すなわち、イ請求、ロ差押・仮差押・仮処分、ハ承認の3つです。
2、 イの請求とは、権利者が時効によって利益を得る者(債務者)に対して、その権利内容を主張する裁判上・裁判外の行為を総称したものです。
(1) このうち、裁判上の請求とは、普通には、訴え提起することです(民法149条)。債務者に対する○○○円の支払請求の訴えとか、不法占有(占拠)者に対する返還(明渡)請求の訴、などが典型的な例でしょう。このようなものを給付の訴といいますが、その他、債権が存在することの確認を求める訴(確認の訴)とか、境界の確定を求める訴(形成の訴)でも中断の効力があります。
 法文では、権利を主張する側(原告・債権者)からの裁判所に対する訴の提起を中断事由として捉えていますが、逆に、被告が裁判上で反論として自己の権利を主張する場合にも中断の効力があります。例えば、債務不存在の訴の被告として争うことや、被告が反訴を提起する場合などです。
 この裁判上の請求が中断の効力を生じる時期は、訴提起の時で訴状が相手方に送還された時ではありません。この時期の問題は実務上極めて重要かつ微妙です。訴の提起は裁判所の受付窓口に訴状を提出するのですが、提出すれば裁判所は受領印を押してくれます。これは、郵便局と同じように日付の明示された公印でそれ自体で公の証明になります。
 では、5時以降や土曜祭日は閉庁になり受付業務はしないのではとか、時効の満了日がこれらの日に重なることがあるかどうするか、という問題があります。このように場合、仕方がないから翌日提出する、などという考えは通用しません。もし、その日が満了日であったら当日の午後12時(翌日の午前0時)をもって時効は完成します。
 裁判所は、このように国民の権利に係わる重要な任務を担っていることから、24時間中いつも書類の受付をする体制にあります。夜間受付という対応です。余談ですが、控訴期間も14日と決められていますが、同僚の弁護士も最終日の午後10時ごろ持って行った経験があるといっていました。
 なお、この訴を提起してもそれが却下されたり取下げたりしたら、中断の効力は生じません。
 以上は、訴を提起すること、すなわち正式な裁判を求める場合ですが、法はこの他にもこの裁判上の請求に類するものとして以下に掲げるものを同じく中断事由として列挙しています。
@調停や支払命令を申立てること。
A即決和解の申立をして相手方を呼び出すこと。
B破産宣告の申立をしたり、他人の破産事件において自己の債権の届出をすること。同様に競売手続で配当要求をすること。
C和議を申請したり、他人の和議事件において自己の債権の届出をすること。
これらは、いずれも、裁判所を舞台としてなすことですから、実質的には訴の提起と異なるところはありません。
(2)、次に、裁判外の請求というのは、「催告」といわれるものです(民法153条)
 これは、日常頻繁にあらゆる手段をもってなされます。口頭ですることもあるでしょうし、電話ですることも、書面でしかも内容証明郵便ですることもあるでしょう。
 要するに、債務者に対して履行を請求する債権者の意思の通知です。請求書、催告書、要求書等文題の名称如何は問いません。
 しかし、この催告は、時効中断の効力としては弱いものです。と言うのは、催告後6ヶ月以内に前項の5つの請求のうちのどれか、または後述する差押・仮差押・仮処分をしなければ、催告自体の中断という効力は生じません。換言すれば、催告の内容証明郵便を出したとしても、そのまま6ヶ月間放置していたら折角出した催告の中断としての効力はなくなるということです。
 よく、6ヶ月毎に何回も催告書を出す人もいますが、出す毎に中断が生じてくるものではありません。
 要するに、この催告は、裁判等の強力な中断方法に訴える場合に、その予備行動として実益があるのです。
3、 差押・仮差押・仮処分
 差押は、確定判決その他の債務名義に基づいてなす強制執行行為で、最も強力な権利の実効行為です。これに対し、仮差押及び仮処分は、強制執行の不能または著しく困難となるおそれがある場合に、執行機関(裁判所、執行官)によって強制執行を実効あらしめるため(保全)の手段です。
 法は、これらを中断事由としました(民法147条)が、中断の効力を生じる時期は、その申請の時と解すべきでしょう。
 もちろん、これらの申請が却下されたり取下げられたときは、中断の効力がなくなること、訴の場合と同じです。
4、 承認
 承認とは、文字どおり債務者が義務のあることを認めることです。
 この認める方式は、別に問いませんが、誰に対するどのような義務を認めるのか、というその義務の内容について特定されていなければなりません。「貴殿には、多大な御迷惑をおかけしています」という文言だけでは、何のことか必ずしも明確ではなく、後に争いになる可能性があります。
 中断の手段としては、この承認の方法が1番手っとり早くて確実ではあります。よくある、一筆書いて貰う、という類です。表題は問わないし、どんな紙でもいいです。念書、証、確約書、債務承認書といった表題になりましょうか。また、ワラ半紙のような粗末な紙の方が相手も書き易いかもしれません。
5、 最後に、中断にかかわる問題として、連帯保証人がいる場合を考えてみます。結論からいいまして、主たる債務者に前項の2から4までの手段をとれば、中断の効力は連帯保証人にも及びます。改めて、連帯保証人各個別に措置を取る必要はありません。
 逆に、連帯保証人に以上の手段を講じた場合は、2と3の請求と差押等は主たる債務者に効力が及びますが、4の承認は及びません。従って、連帯保証人が承認したからといって主たる債務者に請求しても時効による権利消滅を主張されてしまいます。
(平成4年3月 48号掲載)
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