法律問答集
 一 般
〔債権回収の法的手殺--その2〕
4、 即決和解
 即決和解とは、その名のとおり和解の1種ですが、簡易裁判所に申立てて行う和解です。
 債権回収について相手方との間で争いがあって仲々まとまらなかったが、最後にはようやく妥協するに至った、が、実際の履行は後日になる、ということがあると思います。
 このような場合、当初双方で争いがあった経験があるだけに話がまとまっても不安感がつきまとうものです。
 ここのところは、妥結した内容をしっかりした文書にでもしておきたい、そして出来れば不履行の場合強硬的な手段をとれるようにしておきたい、と願うのが普通でしょう。
 このようなときには、前回お話しした公正証書にしておいてもある程度はその目的を達することができます。ある程度というのは、公正証書において強制執行できるのは、金銭とか有価証券、あるいはその他代替物の給付(例えば、一般に容易に代わりとなり得るもの)に限られます。ですから、家屋の明渡しとかある著名な萩焼陶芸家の茶碗を引き渡せ、というのは公正証書で強制執行をつけることは出来ません。ここに限界があります。
 即決和解だと、前述に挙げた事項についても取り決めることは可能ですし、そればかりではなく法律上実現可能なあらゆる事項について盛り込むことができます。
 また、即決和解は裁判所で出来上がる書面ですから、判決や調停調書と効力は同じもので強い強制力と権威を有するものです。
 即決和解の具体的な手続きは、双方が了承した和解案を添えて各地の管轄簡易裁判所に申立て、期日に双方が出頭し裁判官が案の確認をした上で正式に成立します。
5、 支払命令
 前項の即決和解と同じく、やはり簡易裁判所に申立ててその御墨付を貰う手続きに支払命令というのがあります。
 支払命令は、債務者も支払義務があることは認めている、裁判をしても証拠関係も揃っている。しかし、いくら催促しても支払わない、というときに利用されます。
 しかし、この支払命令については前述の公正証書と同じく請求できる内容に一定の制限があります。もっぱら、金銭の支払について利用されるのです。金銭の支払であればその債権内容は問いません。
 簡易裁判所に支払命令を申立をしますと、裁判所はその申立書の申立の理由ないし原因の項を見て理由があれば支払い命令を発します。つまり、当事者を呼んで言い分を聞くとか、公開の法廷を開くとかの手続きはしないのです。書面審理です。
 この命令は、その正本が裁判所から双方に送達されます。
 正本を受け取った相手方(債務者)は、それから2週間以内に異議を申し立てないとその命令の効力が確定してしまいます。逆に、命令の内容に異議がある債務者は2週間以内に裁判所に異議申立書を提出しなければなりません。すると、命令の効力は失われて通常訴訟に移行します。つまり、異議が出ると法廷で開く通常の裁判手続きになってゆくのです。
 支払命令は、うまくゆけば一方だけの1人相撲でことが運び誠に簡便ではありますが、他方、このように異議を申立てると通常訴訟に移行されることになり、今暫く債務者の相手をしなければなりません。また、この異議申立には理由の記載は要りませんから単なる時間稼ぎや嫌がらせでこの申立を乱発されることがあり得ます。
6、 保全処分
 今まで2項から5項まで述べてきたことは、要するに最終的には強制執行ができるための御墨付(債務名義といいます)を貰う手筈です。
もちろん、以上の手続きの過程で相手が支払に応じてくれれば問題はありません。しかし、相手がこれに応じなければ後に述べます強制執行という強硬な手段を用いらざるを得ません。これは、債務者の所有する財産を競売に付して換価しその競売代金(売得金)から弁済を受けるということです。
 ところが、債務者がこの強制執行を免れようとして自己の不動産の名義を他に変えたり、動産類をどこかに隠すなどして占有を移転してしまったら、仮に勝訴判決が調書で強制執行しようとしても実効を収められません。
 強制執行は、言わば債権者にとっては債務者の最後の引当財産からの換価ですから執行するときにこれらの財産がきちんと確保されていなければ債権者として安心できません。
 このような要請にもとづいて編み出されたのが仮差押えや仮処分等の保全処分というものです。一口で言えば債務者の財産が散逸しないように仮に差押え、また債務者の他への散逸(処分)行為を禁ずる命令を裁判所から出して貰うのです。
 仮差押で比較的効果があるのは、債務者の預金とか給料を仮差押することで、これをされた債務者は驚いて示談交渉に駆けつけるのが普通です。銀行預金を押えると銀行取引ができなくなるおそれがあるからです。
 但し、これら保全処分をするには保証金を積まなければなりません。額は大体、債権者の3分の1か4分の1くらいです。
7、 訴訟
 これは、一般に裁判といわれるものです。公開の法廷で双方が立会って夫々が言い分及びそれに対応する証拠を出して、裁判官に判断を仰ぐのです。この判断を判決といいます。
 調停と違って、テキパキと審理を進めていきます。当事者本人でも訴訟行為はできますが、何時の時点でどのような主張証拠を出したらよいかなど多少技術的な側面もあり専門家に委ねないと失敗することがあります。
 主張する事項は、当然ながら法律的に構成できるものでなくてはなりません。無意味の主張などは、直ちに却下されます。
 裁判の期間ですが、大体月1回のペースで進行し、証拠のはっきりしたものは3〜5回位で終わるのが普通です。
 なお、裁判継続中に裁判所が和解を勧告することがよくあります。これを受け入れるかどうかは各人の自由ですが、裁判所の考えには真摯に耳を傾けるべきです。
 裁判の結果得られた判決は、強い効力をもちこれにもとづいて強制執行が可能です。
8、 強制執行
 勝訴判決を得ても、その判決正本で直ちに換金してくれる訳ではありません。あくまで被告(債務者)の支払がないとどうしようもありません。被告が判決で命じたことを実行してくれなければ強制執行するほかありません。つまり強制執行とは、判決等の債務名義の内容を裁判所が強制的に実現する手続きです。判決等の債務名義といいましたが、強制執行するためにはこの債務名義がなくてはいけません。これは、前述しましたように公正証書、調停調書、即決和解、支払命令など判決に準ずる書面のことです。
 具体的に、強制執行をするにはこれらの書面が相手方に送達され、かつ執行してもよい旨の書面を添付(執行文付与という)してもらい申請します。
 執行する財産の種類によって、申請する機関が違います。即ち、動産類に対するときは裁判所に所属する執行官に、また不動産や債権に対するときは裁判所に対して申請します。
 動産類や不動産については、一旦差押をして後日競売に付し、その売得金から配当を受けることになります。差押の方法は、動産は物品毎に紙を貼ることにより、また不動産はその旨登記することによって公示します。今の時代ですから、動産類はあまり高く売れません。債権については、銀行預金や給料などはこれを押さえて取り上げればよいし、第3債務者に対する債権などは債務者に代わって直接取り立てることができます。
(平成3年12月 46号掲載)
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