法律問答集
 管 理(その他)
〔組合に係わる刑事上の問題〕
1、 過去の本稿でとり上げたテーマは、全て組合にまつわる民事上の問題でしたが、今回は少し観点をかえて組合に係わる刑事上の問題についてお話ししましょう。
 現実に組合活動をしていく過程において、不幸にして刑事問題に発展することもままあります。
 そこで、一般によく生じる刑事上の問題について、以下順に考えてみることにします。
2、 最初は、規約違反の貸付行為と背任罪との関係です。
 実際の裁判で取り上げられた規約違反の貸付行為の事例としては、「限度額超過貸付」と「員外貸付」のケースが圧倒的に多いようです。
 限度額超過貸付とは、組合の役職員等が法規上制限されている「組合員らに対する1人当たりの貸付最高限度額」を超過した貸付を行う場合をいいます。
 員外貸付とは、組合ではその事業の利用が原則として組合員に限られているので、このような場合に組合の役職員が組合員以外の者に貸付を行う場合をいいます。
 ところで、背任罪とは、刑法247条に規定するところで、他人(組合)のため事務を処理する立場にある者(役職員)が自己もしくは第三者の利益を図るか、本人(組合)に損害を加える目的をもって、その任務に背く行為をし、その結果本人に財産上の損害を与えた場合をいいます。
 これらの規制違反の貸付行為に対する責任罪の成否について、実際にその成立を認めた次のような判例があります。
 この判例の事案は、組合総会の決議で組合員に対する無担保貸付の最高限度額が定められ、定款には無担保貸付について保証人を必要とする旨の規定があったのに、理事長はこの決議や規定に違反し、無保証無担保で貸付制限額超過の貸付をしたというものでした。
 この限度額超過貸付につき、判例は次のようにいいます。
「刑法247条にいわゆる財産上の損害を加えたとは現実に財産的実害を生ぜしめた場合のみならず、回収不能の結果をまたないでも実害発生の危険を生ぜしめた場合をも包含する」旨判示をし、背任罪の成立を認めています。
 この判例で重要なことは、2点あります。
 第1に、実害発生の危険性があればよいという点と、第2に、単に法令、定款等の形式的規制に反する限度額超過貸付があったからといって直ちに即背任罪になるのではないという点です。
 この第2の点を少し噛み砕いていいますと限度額超過貸付があってもそれが実害発生ないし、その危険性(財産上の損害)につながる行為でなければ無駄だということです。
 そのためには、貸付により組合が取得した「貸付債権」と貸付により組合の資金財産から支出された「現金」とを比べてみて、前者が後者より財産的価値の劣るものであること、例えば実質的に回収見込の困難な貸付債権であるとか、形式上無担保または担多不足等の事情が必要となってきます。
同趣旨の判例をもう1つ挙げておきましょう。
 理事長が組合規約に違反して制限額以上の金員を貸付け、その金額だけ組合財産の減少を来しながら、これに代わって同額の保証債権を取得するとしても保証人の資産額が貸付額に比べて著しく少額であるときは、この貸付行為は組合に対し財産的損害発生の危険を生じさせたことには変わりなく背任罪を構成する、というものです。
3、 次は、不当貸付行為と業務上横領罪との関係です。
 業務上横領罪とは、刑法253条に規定するところで、業務上自己の占有する他人(組合)の物を横領することをいいます。
 金融業務を行う協同組合の職員で貸付権限のある者でも、その貸付が「自己の計算において」行われるとき(いわゆる(「浮貸し」)は、背任罪ではなく業務上横領罪が成立します。
 判例の事例で話しますと、信用組合の支店長らが支店の預金成績の向上を装うため、預金者に対し預金謝礼金の名目で自己の業務上保管する組合の金員中から勝手に支出交付したという事案や、あるいはこの謝礼金を補填するために正規に融資を受ける資格のない者に対し保管にかかる組合の金員を高利で貸付ける目的で支出交付したという事案について、「これら2つのいずれの行為も組合の計算においてなされた行為ではなく、支店長らの計算においてなされた行為として認められる」から業務上横領罪であるとしています。
 同じ貸付行為でも、さきの2項の場合は背任罪となり、本項の場合は業務上横領罪になるというのです。
 ちなみに、両罪の刑期は背任罪が懲役5年以下であるのに対し、業務上横領罪は懲役10年以下です。
 大きな違いです。丁度2倍になります。
 では、両罪はどのように違うのでしょうか。
 背任罪と業務上横領罪との区別の基準は、その処分行為・・例えば貸付行為・・が「何人の名義もしくは計算で行われたか」というところに求めるのが判例の支配的傾向です。
 他人(組合)の名義ないし計算で行われたときは背任罪で、自己の名義ないし計算で行われたときは業務上横領罪です。
 前の2項の例だと理事長は一応は組合のために組合名義を使ってやっていますが、3項の支店長の例は自己の業績向上のために自分の計算でやっているのですから、よく考えるとなるほど違ったようには見受けられます。
 業務上横領罪の最も分かりやすい例は、皆さんも新聞等でよく見聞きされると思いますが、経理担当者や経理関係を監督管理する地位にある人が保管している組合の金を着服して飲食代等の遊興費のために費消したという例でしょうが、これを見ると違いが一層判りやすくなります。
 しかし、行為者の組合内での地位で両罪が分かれるのではありません。
 高い重要な地位にある人のなした行為だと背任罪、一般職員の場合は業務上横領罪というふうに、形式的に分けられるものではありません。
 とは言っても、背任罪の場合は他人のために事務を処理する立場にあるというのが犯罪成立の構成要素となっていますから、おのずからそのような地位や権限をもっている人に限定されることになるでしょう。
 実際の場合、両罪のいずれに当てはまるかを認定するときは、案外その行為や犯意の悪質性の強弱が微妙に影響してくるのではないかという気がします。
 判例は、このような犯意の悪質性のことを「不法領得の意思」いう言葉で表現しています。
4、 最後に両罪の関係について一言します。
 例えば、理事長が任務に背いて組合名義の約束手形を振出し、その手形を組合の当座預金から支出して支払ったという事案の場合、任務に背いて手形を振出したという点は背任罪に、また組合の預金からの支出支払は業務上横領罪になるように思われます。
では、「この理事長は2つの罪に問われるのか?」といいますと、この場合は背任罪一罪のみとなります。
 このような場合は、手形の振出交付という背任行為が手形金の支払によって本来の目的を達成することになる訳ですから、これらの行為全体を一連の行為としてとらえるべきだからです。
(平成2年8月 41号掲載)
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