「NASAが認めた技術
  〜スペースシャトルに採用された日本アルミットの高品質製品と頭脳的営業戦略〜」
 日本アルミット株式会社 取締役社長 澤 村 経 夫 氏


 1.百姓をやめ東京へ
 2.売れないハンダ
 3.全く新しいハンダづけを開発
 4.日本で売れずアメリカで売る
 5.紹介状なしでロッキードへ
 6.社員の1/3を研究費に総売上げの15%を研究費に
 7.営業マンを倍に増やす
 8.社長だけが知らない
 9.NASAから注文が
10.5倍の値段で売っている
11.ISOより厳しい品質管理



1.百姓をやめ東京へ

 私は和歌山県の新宮の生まれで、現在、72歳でございます。幼稚園のときに父の
職業の関係で北海道へ渡り、小学校5年生までおりまして、それからまた和歌山県
へ戻りました。それから新宮中学へ入りまして、新宮中学の終わりころに学徒動員
で和歌山の住友金属へ行ったんです。私は、子どものころは非常に体が弱くて、い
つも体操だとか教練のときには見学組へ回って、昔の言葉で言えば「蒲柳の質」
(ほりゅうのたち)というような、体が弱かったんです。どういうわけか知りませ
んけれども、学徒動員に行きましたとき風邪を引いていて毛糸で編んだものをたく
さん着ていたからだと思うんですが、体の丈夫な人の方へ放り込まれて、そして鍛
冶屋組に入れられたんですよね。そして、もう毎日その日から大きなハンマーを振
るうんですね。朝起きると1カ月ぐらい、腕が上がらなくて困ったぐらい大変だっ
たんですけれども、そのおかげで私は非常に体が丈夫になりました。そして戦争が
終わってから私のところには家族が9人いたものですから、食糧が大変だったんで
すね。それで中学校へ行っているときに、私は母方の祖父の家の後を継いでいたも
ので、多少の財産が入ったものですから、それで私は田んぼと山を買いまして、中
学校へ行きながら百姓を始めたんです。それで牛も飼いまして、農業をやって、親
戚の人に農業というのは重労働だから僕の体ではもたないと言っておじさんやおば
さんに怒られたんです。ともかく中学校へ行きながら百姓をして、一家が食べられ
る米をつくることができたんです。そんなことで私は中学校を卒業してから大学へ
行かないで農業を10年やっていたんです。私は一生、農業をやるつもりでいたので
すけれども、そのころ父が転勤して静岡におりまして、静岡の父から手紙が来て、
東京へ行ってくれないかということを言ってきたのです。父が福島高商の卒業で、
それから九大を卒業しているんですけれども、その父から福島高商の友達の弟が、
アルミニウムをつけるハンダを発明したと。それで、お金がないんで父のところへ
お金を出してくれということを言ってきたんで、多少の金を出した。ところが、ど
うしてもうまくいかないんで、百姓をやめて東京へ行ってくれないかということを
言われました。私は青天のへきれきの思いでその言葉を聞いて、昭和31年に東京へ
出てきたんです。ちょうど私が31歳のときです。素人の人たちが弟が発明したとい
うアルミニウムをつけるハンダを売っているんですが、どうしても売れないんです
ね。それでどんどん赤字がたまってくるものですから、私は東京へ出てきてその仕
事を手伝うようになったんです。


2.売れないハンダ

手伝ってもどうしても売れないんですよ。それで、私はこの商品に惚れているから
いいと思っているけど本当にいいんだろうか?。こんなに赤字が続くんだったら、
本当に悪い製品だったらやめなけりゃいけないと思いました。そして、川崎に東芝
小向工場というのがあってそこへ、そのハンダを売りにいった。そうしたら、タチ
エダさんという人が出てきて、「アルミハンダなんか売るのやめなさいと。戦争が
終わってからアルミハンダと称するものは幾つも出てきている。恐らく数えると6
つぐらい出てきていると思うけれども、どれもみんなハンダづけをした後で腐って
くる、腐食を起こす。だから使い物にならないから君のところもそれと同じような
ものだと思うからやめた方がいい」って言うんですね。それで、私はそれから毎日
10日間通ったんです。そうしましたらしまいに、君の顔を見たくないと。そんなわ
かりきったことを何で何遍も通ってくるのかって言うんで、私は言ったんです。
あなた、技術者でしょう。技術者がどうして試験をしないで悪いんだって言うのか
!。今までのものが悪かったから、今度のものを悪いというのは間違いだと。
だから試験をちゃんとして、これはこのように悪いというんだったら納得できるけ
れども、何も試験しないで悪いっていうのは技術者として許し難いということを言
ったんです。大変難しい顔をしておられて、30分ぐらい黙っていたんですが、椅子
から立ち上がって、うん、君の言うのは正論だと。だから試験をやってみると。そ
のかわり試験してだめだったらもう途中でやめるけど、それでいいかっていうから、
いいです、ということになりました。それから私は毎日、東芝の小向工場へ1年通
ったんです。そうしましたら、タチエダさんという人はだんだん顔色が穏やかにな
ってきて、そして最後には、行くとニコニコして手を挙げてくれるようになって、
君、あのハンダは本当に使えるよということを言ってくださったんです。そして1
年たったころに、東芝の全工場の技術者を集めた会議で、タチエダさんがそのデー
タを発表してくれて、世界で初めて使いものになるアルミニウムのハンダができた
という発表をしてくださったんです。そうしましたら、東芝の富士工場から電話が
かかってきて来てくれっていうんで行きましたら、東芝は電気釜では日本で一番最
初にそれを製品化した会社である。ところがだんだんほかの会社でも電気釜ができ
てきたんで、それよりもいいものをつくらなければいけないんで、君のところのハ
ンダを取り上げたい。だから30キロほど注文を出すから納めてくれということで出
したんです。そうしましたら1年、何にも言ってこないんです。1年後に東芝の富
士工場から電話がかかってきて、来てくれと。行きましたら、広いところへ机が並
べてあって、そこに100個の電気釜が並んでいるんです。そして、あなたのところ
のハンダを使って今までにない全く新しいタイプの電気釜を作った。
そして、それを東芝の富士工場の社員のみんなに貸して、そして毎日御飯を炊いて
もらって1年間365日試験をやって、それを全部回収して今並べて調べてみたらど
こにも腐食が起こってない。それで、使えるということが明らかになったんで、量
産しますということを言われたんです。そのときは大変うれしかったんですが、注
文が殺到しまして、それを作るのに追われたんですけれども、それで6〜7年間の
累積した赤字を埋めることができた。その当時はアルミニウムを使ったテレビのア
ンテナだとか、あるいはアルミの箱を使ったコンデンサーとか、いろいろなものに
アルミニウムのハンダが使われたわけなんです。
それで赤字を埋めたんですけれども、それ以上の大きな利益を得ることができなか
ったんです。そうしておりましたらあるとき日産自動車の電装品をつくっておりま
す、日本精機という会社から電話がかかってきて来てくれと。で、私が行きました
ら、最近自動車に電装品がたくさん使われるようになってきたが電装品のハンダづ
けがすこぶる悪いと。そのために、それの修理に泣かされておると。ですから、そ
れを開発してくれないかというんです。既存の大手のハンダメーカーさんにそうい
う開発をしてくれということを頼んだら、どこもできないと断ってきた。だけどあ
なたのところはアルミニウムのハンダをつくったんだから、そういう特殊な技術を
持っているに違いないと。だから、そういうハンダを開発してくれないかというこ
とを言われたんです。私はその場では、ハイということを言わないで帰ってきまし
たら、何遍も電話がかかってくる。それで、これは本気に取り組まなければいけな
いなということになりまして、現在使われている、いわゆるやに入りハンダという
ハンダでテレビとかいろいろなものに使われているハンダなんですが、それを買っ
て調べてみたんです。そうすると、ハンダの芯に2%穴があいていて、その中に松
ヤニが2%入っている。その松ヤニの中に塩素が入っている。そして、その塩素の
働きによってハンダづけができるんです。ところが、塩素をハンダづけしたところ
に塩素が残りますと、塩素が空気中の水分を吸って、そして塩酸になるんです。
そうすると塩酸が金属を腐食させて、つけたところが少し時間がたつとはずれてく
るということが分かったんです。それで今度調べてみると、JISの規格もアメリ
カの郡のミルの規格も、ドイツのリンという規格も全部塩素が入っている。そして、
ハンダというのは塩素を入れた松ヤニを芯に入れなければいけないということにな
っているんです。


3.全く新しいハンダづけを開発

それで、私は非常に簡単に考えたんです。私は技術者ではありませんから難しいこ
とはわからないんで塩素が悪いんだったら塩素のかわりになってハンダづけがうま
くできて、しかも後は塩素にならない、そういう塩素を全く含まないものを作った
らいいんじゃないかということで、そのころ研究員が2名いたんですけれども、1
名の者にありとあらゆる、ハンダづけに使われる可能性のあるものはみんな集めよ
と。1人にそれをハンダづけができるかどうか調べてみよと。
今度はできるということがわかったら、それが後塩酸が残ってないんですから、腐
食を起こす心配がないからそういうものを探しなさいということでやりましたら、
1年たったらいいものが見つかったと言ってきたんです。それで、ともかくその塩
素のかわりになるものを見つけて、そしてハンダをつくって日産自動車へ持ってい
ったら、日産自動車ですぐ試験をしてくれまして、これはすごくいいよと、採用す
るよということを言ってくださったんです。それから10日後に、今度は本田技研に
持っていったんです。そうしたら本田技研も非常に困っていたと。すぐ採用するよ
ということで採用してくれて、あっという間に日本中の自動車メーカーさんがみん
な使うようになったんです。このハンダが開発されたのが昭和51年ですから、昭和
56年ごろに日本の自動車がアメリカに輸出されて、そして非常に故障がないという
ことが評判になって、日本に大量の自動車の注文がきたんです。そのころ日米摩擦
と言われたんですが、実は私どもの初めてつくった、そのヤニ入りハンダでそうい
うことが起こったわけです。ところが私どもは、それは自動車にしか使われないハ
ンダだと思っていたんです、その当時は。ナショナルの研究所の人に会いましたら、
あれを試験してみたら非常によかったと。あんたのところ自動車だけではなしにテ
レビだとか、いろいろなエレクトロニクスの業界に売り込んだら大変な商品になる
よということを言われたんです。それで早速カタログをこしらえて、日本中の東芝
さんも日立さんもNECさんも主なところ全部回ったんです。ところが全部回って
も、どこも1キロも買ってくれないんです。試験もしてくれないんです。そして、
なぜ試験もしてくれないし使ってもくれないかという話をしたら、我々の業界で使
われている実績がないと。実績のないものは恐ろしくて使えないと言って取り上げ
てくれないんですよ。日本の業界っていうのは、その当時はそういうような状態で
あったと。それで私がふと思ったのは、もしもこういういいハンダがアメリカにあ
るんだったら、当然日本に入ってくるはずだと。入ってこないところを見るとアメ
リカにもないはずだと。


4.日本で売れずアメリカで売る

だからアメリカに売りに行こうじゃないかということを言ったんです。私はちょう
どそのころ、1年近く病院に入っていまして、胃潰瘍で胃と食道を切りまして、そ
の後退院して10日目に自動車にはねられて頭がい骨折、足の複雑骨折をして、1年
間に6回手術をしたんです。みんな陰で言っているんですよ。とうとう社長も頭を
やられて頭に来たかして、日本で売れないのにどうしてアメリカに売りにいけなん
ていうことを言い出すんだろうと言っているわけですね。そのころ若い青年がおり
まして、マツモトというんですけれどもそれを呼んで、君、アメリカへうちのハン
ダを売りにいけよと。そうですかって言って。そうしましたら、どこからかテープ
を買ってきて英語の勉強を始めたんです。
マツモト君を呼んで、マツモト君、今から英語の勉強をやったって間に合わないよ
と。だから英語の勉強なんかやめなとさいと。やめてどんなふうにして売るんです
かと言うから、いや、日本語でやったらいいと。日本語でいいんですかって言うか
ら、いいよと。アメリカ人は日本語できないじゃないかと。あなたが英語ができな
くてもそれはフィフティー・フィフティーじゃないかと。何も恥ずかしいことない。
必要な人がちゃんと通訳を連れてくる。だから日本語で行きなさいと。そして日本
語で行ったら向こうの人も日本から来た人だということがわかってくれる。だから
資料だけは英文をつくってあげるからそれを持っていきなさいと。



5.紹介状なしでロッキードへ

そのころはちょうど毎日、例のロッキード事件があって、そのことが毎日、新聞に
載っているわけですね。僕は言ったんです。いいよ、ロッキードへ売りにいってこ
いと。そうしたら、10何人の会社から何万人といる会社のロッキードへ売りにいけ
と言っても唖然としているんですね。ともかくロッキードへ売りにいけと。
それで翻訳した資料を用意して、それを持ってアメリカへ行くことになったんです
ね。そして、行くようになってから紹介状をどこかからかもらっているのかって言
うから、紹介状なんかあったら君に頼まないよと。どんなにして行くんですかって
言うから、ロサンゼルスにあるはずだから、ロサンゼルスヘ行ってホテルへ泊まっ
て、朝起きたらホテルの前にタクシーがあるから、そのタクシーに大きな声でロッ
キードって言ってみよと。そうしたら、本当にロッキード社へ連れて行ってくれた
んですよ。そして、向こうの人に話をしたら日本語がわかる人を探してこいってい
うわけで探してきて、そして話をしたら、じゃあ、試験をすると。10日後に来てく
れと。それで10日後に行ったんです。試験をしたら大変いいと。うちは採用すると。
その10日間にうちの会社の信用調査もちゃんとやっているんですね。そして笑いな
がら、あんたのところの会社は小さな会社じゃないですか。だけど、うちは会社を
買うのとは違うと。品物を買うんだと。あんたのところの品物が立派だからうちで
採用するから早く増産体制をとってくれと。それだけなんですよね。会った人は最
初から最後までたった1人なんですよ。そして、その1人の人が決めてくれたわけ
ですよ。日本だったら何人の人に会わなければいけないかわからないでしょう。
そして、その1週間後にアメリカにヒューズ・エアクラフトという会社があって、
これは有名なハワード・ヒューズという飛行機のパイロットがいて、その人が1代
でつくったコングロマリットなんです。そこへまた同じように飛び込みで行って話
したら向こうの人が出てきて、そして話をすると、その人はちょっと待てって言う
んですね。その時に、アメリカでどこか採用が決まったかと言って。ロッキードが
決まりましたと。ああ、そうか、ロッキードが決まったんだったらたいしたもんだ
よと。そのロッキードの会った人の名刺を見せてくれと言われて。そして、その名
刺を見てちょっと待ちなさいと言って、目の前でその名刺の人に電話をして、君の
名刺を持った人が来てると。そして何て言っているかというと、あんたのところで
この会社のハンダを採用することに決めた、ということを言っているけどそれは本
当なのかと。本当ですと。そして笑いながら、その人が後で、あんたのところも使
わないと損をするよと言ったんだという話をしてくださったそうなんです。それで
ヒューズ・エアクラフトが採用を決めた。そこでこれはしめたと思って、アメリカ
のダグラスとかボーイングとか、そういう飛行機会社をみんな回ったんです。どこ
へ行ってもみんな採用を決めてくれる。そのときにロッキードへ行った話とヒュー
ズ・エアクラフトへ行った話をして、今度その次加わった、採用してくれたところ
があればそれを加えた話をすると。性能の話なんか一言もしないわけです。どこそ
こが使ってくださいましたということだけで採用してくれる、試験をしましょう、
ということで試験をしてくださった。ところが今度は日本の方なんですけれども、
日本の方は相変わらずどこも採用してくれないんです。ところが意外なことがあり
ました。NECさんが、先ほど話したヒューズ・エアクラフトと通信衛星の契約を
していたんです。そして、NECにアメリカから通信衛星の図面が送ってきたんで
す。そうしたら図面の下の方に、これに使われるハンダはすべて日本アルミットの
KR19RMAを採用することと。そのときはまだRMAがとれていませんでしたか
ら、KR19を採用することと書いてあった。それが日本で一番最初に使われること
になって、それでぼつぼつ日本のメーカーに使われるようになってきたんですね。
そういうことで、まずアメリカに売り込むことができるようになったんです。それ
から今度はヨーロッパへ売りにいったんです。ヨーロッパに売りにいくというと、
ヨーロッパにはドイツのリンって言うんですかね、規格があるので、それをとらな
かったら売れないよということを散々言われたんです。私がヨーロッパへ行ったん
ですけれども、ヨーロッパの向こうの会社の人に会って、アメリカのこういう航空
機会社が使ってくれているという話をしたら、いや、もう規格なんかいりませんと。
それからもう一つ、ハンダというものが非常に困っているんだと。そういうところ
が買って使われているんだったら、うちも使いますということで、みんな使ってく
れるようになったんですよね。そして、決してハンダの性能の話はしない。 どう
いうところで使っているかということだけでいいんですよね。ですから売り込むと
きに、例えばフランスへ行くと、トムソンという有名な会社があると。そうすると
フランスの人たちはトムソンが使っているものだったら心配ないというんですね。
ですから、例えばアメリカですと、アメリカにベル研究所というのがありまして、
通常ベルコアと言っているんですが、そのベルコアがハンダの規格を持っているん
だと。そしてそれは世界で一番厳しいハンダの規格を持っている。この間ベルコア
のハンダの担当者のジャンコフさんという人が日本へ来て、私のところへ寄ったと
きに怒られたんです。あんたのところは品物を売るのが下手だと。何で下手かとい
うと、うちの品物はいい品物だと売り込みにいくけれども、それは間違いだと。
それはなぜかと言うと、ベルコアでの規格が、今世界で一番厳しい規格なんだと。
だからその規格をとっているとさえ言えばどこでも使ってくれるんだよって言われ
たんです。まさしく、そういう一番厳しいところへ使ってもらえれば、他でも使っ
てもらうことができるわけです。私どもはトップセールスと言っていますけれども、
一番技術的に高いところに売り込みにいくと。そしてそこで使ってもらえば、その
ライバルのところへ売りにいくというふうに、上から落としていくと。それで下の
方はもう回らないんです。回らなくてもそういう話を聞いて使いたいということを
言ってくるわけなんですから。そういう売り込みの仕方をやっているんです。



6.社員の1/3を研究費に総売上げの15%を研究費に

三菱総合研究所の所長をしておられた牧野昇先生が生き延びることができる企業は、
そこの会社が研究費、開発費を幾ら使っているかによって、生き残る会社が決まる
ということをお話していたんです。私は本当に愕然としました。儲けることばっか
り一生懸命になっていたんだけれども、もうけたお金を何に使うかということを忘
れていたのに気がついたんですね。これは大変なことだと思いまして、すぐ東京へ
帰ったら次の日から東京の郊外を回って、研究所になるような建物と土地を買って、
そこに研究所をつくった。そして私は、会社の方針として社員の3分の1は研究員
にすると。それから、総売上げの15%を研究費に入れるということで、売上げがふ
えてきても、その15%は研究費に入れる。現在、社員150名おりまして、150名の内
の50人が研究員なんです。そして総売上げの15%、大体この4年間で11億円、研究
費に使っているわけなんです。ですから、いろいろなベンチャービジネスというと
ころがありますけれども、うちほど研究費を使っているところもないし、それから、
それだけ研究員を使っているところもないということで、大変自負しているんです。
そしてどこにもない、だれが来ても恥ずかしくない研究所をつくろうということで、
そういう研究所をつくったと。そして、オランダのフィリップスという会社の技術
部長が私のところの研究所を見にきた。そしてびっくりして、あなたのところ、今
世界で一番すぐれているいろいろな分析器とか入れている。
だけど、私は腑に落ちないのは、その立派な分析器をどうして2台置いているんだ
ろう、ということを聞かれたんです。私が話したのは1台使っていて、もしその分
析器が故障を起こしていたらわからないでしょうと。2台置いていたら、必ず2台
は同じ数字が出なければいけないんであって、1台とこれと分析の数値が合わなか
ったら、必ずどちらかが故障をしているわけだから。そういう故障を見つけるのは
2台以上置いておかないと、そういうことに対応することができないから、みんな
2台置いているんですよと。
 一番問題は何かというと人間なんです。人間が一番汚いんです。人間の手から出
る塩分、油分、それから口で吐く息、せきだとかそういうものが一番悪いんです。
 アメリカにテキサスイントゥルメントという会社があります。そこは何をつくっ
ているかというと、ロケットをつくっている。戦争のときに使うロケットをつくっ
ている。それが、湾岸戦争が起こる前にみんな故障を起こして、とんでもない所へ
飛んでいくわけです。それを調べてみるということになって、それで私もすぐテキ
サスイントゥルメントへ飛んだんですよ。そして見てくれと言って見ましたら、事
故が起こっているんですね。それは何故起こるかというと、クリームハンダをつく
るときに空気中を飛んでいるほこりだとか、髪の毛だとかそういうものが入って、
それがハンダづけするとハンダづけしたところに毛が入るわけですよ。そうすると
毛が入ったところに、空気中の水分が結晶になって水滴になって残るんです。そこ
に微弱な電流が流れると一種の電気メッキと同じような状態が起こって、ここから
ここへパッと金属の枝ができるんです。それができると、電気の回路がみんな狂っ
てしまいますから、今のロケットがとんでもない所へ飛んでいくわけです。そうい
うのを私どものハンダを使ってなくすることができたので、非常にアメリカで喜ば
れたんです。ハンダというのは非常に重大な役目をするわけですね。韓国のサンセ
イ電子がつくったカラーテレビをアメリカへ輸出したと。そうすると門から出て、
アメリカの市場に配られるのに船に積んで持っていくと3カ月かかると。そして、
納めたそのカラーテレビが全数不良になった。そして、全数返品になった。そして、
そのニュースを私が聞いたものですから、すぐ大阪から東京へ電話をして、サンセ
イ電子の東京出張所があるから調べよと。そうしたら電話がかかってきて、調べた
けれども電話帳に載っていないって言うんです。それで私はすぐ、じゃあ、韓国の
大使館に電話してそしてどこにあるか聞いてごらんと言って。そして、大阪から帰
ってきましたら、今わかったと。東京のサンセイ電子のメーカーの電話番号がわか
ったから電話しましょうかと言うんですよ。私、こちらから電話するよりも向こう
からかかってくれた方が、話をするのにしやすいと。じゃあ、3日待ちましょうと。
3日して連絡がなかったらこちらから電話しようと言っていましたら、3日目の夕
方に電話がかかってきて、そしてサンセイ電子の社長が会いたいということを言っ
てきたんで、私はすぐ次の日にソウルへ飛んで、向こうの人に会ったんですね。そ
して、いろいろな話をした。そうしたら、サンセイ電子ではカラーテレビを全部私
のところのハンダに変えるというので、今度は社員の主立った上の人を集めて社長
が大変怒ったそうです。何で怒ったかというと、カラーテレビを使うために5トン
の注文を出した。ところがどうしてその5トンの注文がふえないんだろうか。その
ハンダづけ不良はカラーテレビだけじゃないんじゃないか。ありとあらゆる製品が
ハンダづけ不良によって返品になったり、苦情が来ているんじゃないか。それなの
にどうしてこの際、社長、5トンじゃ足りないよと言って、全部かえないだろうか
ということを言われた。そして、そこで注文が月30トン出た。それで私はその席で
言ったんですけれども、30トンを使う必要はないと。うちのハンダは使用量が半分
で済むんだと。だから半分にしたらいいと言ったら、みんな笑ったんです。その笑
ったのはあざ笑いの笑いなんですよ。僕はまあ、こんちきしょうと思ったんですけ
れども黙ってた。ところが実際に使ってみると今まで30トン使っていたのが15トン
で済んだ。そしてそのためにいろいろな製品の不良がなくなって、そして今では電
気製品の質が大変よくなっている。今私どもで一番たくさん売れているのは韓国で
す。
この前ある電機メーカーさんへ行って工場長さんとお話ししたんです。初め、行っ
たときは余り気乗りしないような顔をしていたんですけれども、話をしていました
らだんだん態度が変わってきたんです。それはなぜかというと、私はこの間おたく
のロンドンの工場へ行ってきました。そして、そこで卓上の手で回すワイヤレスの
電話をつくっている。そして、そのつくられた製品は全部アメリカへ輸出されてい
る。そして、ハンダづけするのをこういう層があって、そこへハンダを溶かしてお
いて、そしてここのところをフラックスといって、液体状のものをこうつけて、そ
してこれをこういうふうなところを走らせている。それを工場を見てくれと言うん
で見たらそういうことをやっている。そして、それをしてここへ来てそのついてい
るところを調べると、仮に100カ所としますとその内30カ所がハンダづけ不良なんで
す。そしてそれをハンダづけ不良というと格好が悪いから、修正機って言うんです。
どこのメーカーでもそれを修正と称しているんです。そうすると、工場長あたり聞
いたって、ああ、修正かって思うけれども本当は不良なんです。そして、その不良
が出たやつをどうしているかというと、ここへ女の子をずっと並べて、みんな小手
先でつけ直しをやっている。それで私は言ったんです。そのイギリスの会社は社長
さん日本人なんですけれどもと。今見てみると修正率が30%出ていますけれども、
おたくでアメリカに輸出してから返品がどれだけ戻ってくるか、社長さんだから御
存じだと思うと。僕は当ててみましょうかと言ったら、黙っているんですよ。そし
て、あなたのところの返品率30%でしょうって言ったら、その社長なんて、どうし
てわかったんですか、ということは当たっているわけですよね。
なぜというと、こういうふうに熱で加工してひっくり返してハンダづけするときに、
電気ごてを使って1カ所ずつつけ直しをする。つけ直しをしたときに電気で再度加
熱されると膨張が起こる。そして、それでつくったものがアメリカへ行って、遅く
とも3カ月以内にみんな外れちゃうんですね。だから修正したものは輸出したらい
けないんですよ。根本的には修正をなくするより手がないんです。だから私のとこ
ろで、そのウエブソルダーに使うところのフラックスがあるのでそれを使ってくだ
さい。少なくともそれは3%以下になるはずだと。そうしたら、その3%以下のも
のは修正したらだめですよと。だから、絶対に修正したものを手直ししたらだめな
んですよという話をしたんです。これはうそか本当かはおたくのロンドンの工場で
やっているから電話して聞いてみてくださいと言ったんです。そうしたら、工場長
が顔色を変えちゃって、すぐハンダの担当の人、皆呼び集めて、君たちも俺たちも
ハンダに対する考え方が実に甘かったと。我々はそういうことを当たり前のことだ
と思って不良をどんどんつくっていたわけだからね。この不良をなくすることによ
ってどれだけ利益が上がるかわかるじゃないですか、という話をハンダの担当者の
人に話してくださいました。そして、1週間後には、そのハンダの担当者たちが5
人ほど私のところの研究所を見にきたんです。それほどハンダというのは非常に難
しい、大変なことだと。アメリカの技術の粋を尽くした、その戦争に使うロケット
ですらハンダをちゃんとしていないと、とんでもない所へ飛んでいくわけですよ。
ですから、アメリカが4〜5年前に「ハンダづけ白書」(ソルダリング・テクノロ
ジー)という白書を発表したんです。そしてその中に、こちらにロケット、そして
こちらに飛行機、そしてこちらに軍艦の3つの絵が載っている。ハンダづけが完全
にしてなかったら、この3つのものが大変なことになるということが、中にこまご
まと書いてある。だから、ハンダづけというのをみんな軽々しく考えない。甘く考
えない。そして昔からハンダ屋っていうのは、ついお風呂みたいな釜の中へ金属を
ぼんぼん放り込んで、そして流してつくるもんだと思っているんです。それではも
う、全然時代離れしているんです。技術の上でも一番考えられるほど厳しい条件で
つくらなければいけない。ですからこの間も、松下の人もソニーの人も私どものハ
ンダをつくっている工場と研究所を見にきた。そして帰るときに何と言ったかとい
うと、あなたのところみたいな清潔な工場を見たことないと言うから、私は笑って、
いや、そうなんですよと。私のところのトイレは設計する人に何て言ったかという
と、大の方のトイレですが、そこへ腰をかけて弁当を食べられるようにしてくれと。
それほどきれいにしてくれと。それと臭いをなくしてくれと。そういう要求をし
た便所をつくっているんです。それほど厳しくやっても、厳しくすることが足りな
いんです。そういう環境の中で、いろいろなハンダを研究し、なおつくっているわ
けですね。それで、私どものこのハンダを最初に売り出したときに、なかなか売れ
なかったと。そして、そのときに売る方法が間違っているんじゃないかなと思った
んですね。私は、病院から出てきたときに就職情報の人を呼んでいて、僕は一番最
初に出てきたときに就職情報の人に話をした。人を募集すると。



7.営業マンを倍に増やす

だからというんで、今の営業の人を2倍にしましょうと言ったんです。そして、僕
はそのことをうちの重役にも相談しなかった。だれにも社員にも相談しなかった。
営業の人を2倍にすると言ったら、みんな反対するんですよ。そんな無駄な金を使
ったらいかんと。だから、反対することは相談しないことにしている。そして結果
がよかったらみんな、ああ、よかったねということになるわけですよ。ですから、
いいと思ったことは諮らないで勝手に進めていく。そして営業の人を2倍にふやし
た。それから、その次に何をやったかというと、今までやっている営業の人々の営
業のやり方の調査をやった。そして一番先に、1日8時間の内に何人のお客さんに
会っているかという調査をやった。一番たくさん会社を回っている人で2社。大体、
1社なんです。そして、それが例えば千葉の方へ行ってから川崎の方へ行くと、ま
ったく方角の違うところを回っているわけです。一カ所のところでいい会社を3つ
と言ったら、3つ回ることができるんですよ。だから、一番の問題はその営業の人
が、自分が仕事をやっていると思っているんです。車に乗ってドライブしているこ
とも仕事をやっていると思っちゃうんです。ですから、それは間違いだということ
で、全部調べてAの会社があると、そうするとAの会社の社員が4,000人あると。
そうすると4,000人の中でハンダを扱っているところは何カ所もあるわけですから、
それを全部調べて、そこでどれぐらいハンダが使われているのか。そして、その1つ
のポジションの中で何人の人に会わなければいけないか。そして会うべき人のとこ
ろへは皆、丸印をつける。そして行ったらまず、そこの会社の門の近くに宿をとる。
そして、朝、門が開くと同時に会社へ入るわけです。そして、夕方まで入っている。
それで3〜4日そこにおらす。そうすると向こうの人が言いますよ。あら、アルミ
ットさん、いつうちの会社に入ったのと。いや、もう2〜3日前から入っていると
言って。そうすると、だんだん向こうの人もアルミッドさんみたいにそんなに本気
になって、真剣に当たってくれるところはよそにないって言うんです。だから、そ
ういうふうに会社の中を調べて会うべき人をきちんと捕まえて、そしてその人たち
を説得に回る。
そういう営業を今までうちもしていなかったんです。そして、そういうふうに営業
をみんな変えると同時に営業の人を2倍にふやした。そうすると営業の効果が5倍
になります。そして、1年たったら、その次の年の1月1日の「日経新聞」に去年
急成長した会社20位というのが載ったんです。うちの会社は上から7番に載ってい
るんですよ。だからみんなに、うちは7番になったよという話をした。そうすると、
みんなやはり考え方が変わりますよ。どうしてもそういうふうにしてやらないとい
けない。ところがそれはいいんですけれども、人間というのはいつもだれてくるん
ですよ。怠けてくるんですよ。惰性に走っちゃうんですよ。それをどういうふうに
して持続させるかということは、いろいろ工夫を凝らしてやっていかないとだめで
すね。ですから、まずいい製品をつくるということ。それは研究所で発明するとい
うことです。それから発明したものをどういうような製造工程でつくるかというこ
とも大事なことだし、それと同時にみんなの営業のやり方をどういうふうにしてい
ったら一番効果的にやれるかと。みんないい製品をつくったら売れると思うんです。
ところが売れないんですよ。売る努力をしないとだめなんです。それで私も最近、
ちょっと思うところがあって、今までは机の上に座ってみんなにギャーギャー言っ
ていたんですけれども、どうも歯車が会わないんですね。自分で行ってみようとい
うことで、いろいろな会社の社長さんに会うことにしている。そうすると、いろい
ろなことがわかってくる。


8.社長だけが知らない

あなたの会社の不良率はどれぐらいですか。そうすると、3分の1は知らない社長
さんが多いです。社長さんの周囲の人がみんな隠しているんです。関西のある有名
な会社で、私はそこの会社の重役さんに聞いたんです。そこでストーブをつくった。
そうしたらストープが火を噴いて火事を起こした。ところがいつまでも社長さんが
自分のところの製品が火を噴いているのを知らなかった。なぜ知らなかったかとい
うと、朝、秘書課からその日の新聞に載った記事を貼って持ってくると。そうする
と、秘書担当の総務の重役が1時間前に行って、社長が読むと機嫌を悪くするとこ
ろだからみんなとっちゃって、取りかえていると言うんです。本当はそれを読ませ
ないといけないんです。そのための新聞でしょう。それを社長だけが知らなかった
と。そして、収拾のつかないほど品物が流れて、知ったときは手の打ちようがなか
ったと。それで私はよくうちの会社の社員に言うんです。もしもうちで不良が出た
らどうするのかと。君たち、どんな手を打つかと。そうすると大抵優秀な奴はこう
言うんですよ。すぐその製品を取り寄せて、研究所へ持っていって原因を調べる。
そして、それのかわりになるようなものをつくるって言う。そうするとみんな、
ああ、と安心したような顔をして、そうだなあって。だから僕は言った。そんなこ
とを言ったら会社は潰れるよと。関西の会社がつぶれたのは、そういう手を打てな
かったから潰れたんだと。
それは、原因を探ることじゃないんだと。不良の出た品物の出荷をとめることだと。
ありとあらゆる手を打つ中で、最初に打たないといけないのは、不良の出ている製
品の出荷をとめて、それから原因を調べればいいんじゃないかと。幾ら原因を調べ
ていても出荷を出していたら、どんどん不良品が山のようになってきて、そういう
ふうになるんだよという話をするんです。工場長さんにお会いしてお話を聞くとそ
こは自動車の部品をつくっている会社ですよ。そうすると、自動車の部品が大手の
自動車会社へ納められますね。そして不良が出るとどうなるかというと、その部品
を買い戻さないといけないんです。そうすると5倍の値段で買い戻さないといけな
い。大変なことですよ。そうしたらそこで2%の不良が出たら、10%で買い戻さな
いといけないんです。そうしたら利益なんか飛んでしまうわけじゃないですか。そ
して、私はそこへ行ったときに、私どもでスウェーデンのボルボという自動車があ
ると。それは全部私のところのハンダをつかっていると。ボルボは日本へ進出する
ために日本の自動車を調べたと。そうすると、日本の自動車が非常に不良が少ない
というのがわかった。そしてもう1つ調べたら、それはうちのハンダを使っている
ということがわかって、向こうの社長から電話がかかってきた。そして、技術者を
派遣してほしいというんで、そこに行って向こうの工場を全部回った。そして話し
たら、その全部の工場がハンダをうちに変えたんです。そして私が5年後に行った
ら、向こうの技術部長が出てきて何と言ったかといったら、いまだに私のところは
5年たって、おたくのハンダを使っていると。5年間、1台も電機製品のハンダづ
け不良は出ておりませんと言われたんですよ、というお話をその社長にしたんです。
そうしたらその社長がびっくりして、いやぁ、不良が出ているんですかと、1%。
それで社長はもうイライラしている。ところが現場の人はのんびりしている。何で
といったら、不良が出るのは当たり前だと思っている。そして、そこへ私どもの代
理店の人が15年通っている。15年通ってよう落とせないんです。そしてそれだけで
はない、担当の人が取り上げないんです。それで、社長は激怒して担当を呼んで何
で変えないのかという話をしていたら、いや、社長さんがそういう御意向だったら
変えますって言ったものだから、また社長に怒られて、これは君の仕事じゃないか
と。そうしたら不思議なことがあるもので、1週間したら500キロ注文がきたんです
よ。えらく対応が早いなと思ったら、それで飛んでいってみたら違うんです。そこ
のアメリカの会社がどうしても不良がなくならないんで困って、そしてアメリカで
私どものハンダを手に入れて試験をやってみた。そうしたら、不良がなくなるとい
うことがわかったから本社の購買へ500キロ注文を出したんです。そうしたら購買の
担当者がこんな高い値段のもの使えるかと言って、机の引出しに入れちゃった。そ
してそこで眠っていたわけですよ。そうしたら、社長は今度はアルミット派に変わっ
たというんで、慌ててその注文書をうちへ送ってきたということがわかったんです。
ですから、やはり人の問題ね。だからそういうのをよく調べるのは、やはり上の人
に会わなければわからないということで、私、今あっちこっち毎月回って偉い方に
お会いしていろいろお話も聞くし、こちらからもいろいろなお話をするんです。そ
うしないと直らない問題、解決しない問題というのは結構多いように思いますね。
私はそういうような下の人の意見も聞かないとか、お客さんの言うことも聞かない
というようなことになったらいけないと思って、非常に気をつけているんです。
10年近く前にトヨタ自動車がハンダづけ事故を起こした。そして、そのときの新聞
発表の数字ですよ。それが実数かどうか私はわかりませんけれども、270億の損害を
出してます。そして、それを協力工場で発生したものだから、協力工場がその金を
弁償したというふうに聞いているんです。それがあったものですから、私どものハ
ンダがスペースシャトルに使われたもので、それを社長秘書のところへ送ったんで
す。そうしたら社長がそれを見て、非常に参考になりましたと言って、秘書を通じ
て返事があった。1月ぐらいしたら下の課長さんから連絡があって行ったんです。
そうしたらトヨタさんが、うちの事故を起こしたハンダメーカーは研究費をどれぐ
らい使っているかと。そうしたらほとんど使っていないんですよ。その人たちはた
くさん使っていると思っているんですよ。そこでトヨタさんはこんな少ない研究費
じゃ困るな、と。うちはこういうメーカーと心中するわけにいかないと。日本で今
度はほかのメーカーの研究費使っている一覧表を全部出させて。そうしたら、うち
だけがダントツでこんなに使われているわけですよね。そうしたら豊田章一郎さん
のツルの一声で、アルミットに変えようと。本社工場、全部変えてくださった。だ
からやはりトヨタさんというのは僕は大変なものだということを思ったんですけれ
どね。私は農業をやっていた当時、民俗学という学問をやっていたんです。民俗学
というのは、いろいろな人の生活の中に残っている昔のものを調べて、そして類型
的にいろいろ調べて、それによって昔は日本人はどんな生活をしていたんだろうと
か、そういうことを調べる学問なんです。ですから、私は品物を売るときにも、ま
ず調査すると。調査が一番の営業だと。調査なくして営業はないということをいつ
も言っているんです。そういうふうにしていろいろな調査をすると、そこでどうい
うような営業のやり方をしたらいいかということがわかってくるので……。そして
それによっていろいろな手を打つということをやっているわけです。この間も、あ
る大手の会社の研究所長から電話がかかってきて会いたいっていうので行ってお会
いしたんですね。そして話したときに、富士通のタイ国にあるサカタ商会というと
ころと提携した工場があるんです。そこの工場は世界の富士通グループで一番不良
が多かったんです。だから社長はそのことを心配するといつも寝れないと言ったん
ですよ。ところが私どものハンダに変えたら、0ppmになった。0ppmというのは本
当の最高の不良がないことなんですよね。そうしたらそこの研究所の所長がびっく
りして、我々技術者の一番の夢は0ppmの製品をつくることだと。だけどそれは夢で
あって現実にあるとは思えなかった。だけど最近あちこちで0ppmのところが出てき
ているというお話をしたら、本当に驚いた。だからうちとしても早急におたくのハ
ンダを取り上げてやっていくよという話をしてくださったんです。一番いい例は、
アメリカの先ほど話の中に出たテキサス・イントゥルメントという会社があるんです。
そこへ行きましたら、これぐらいの人たちがハンダづけをやっているんです。そして、
それの班長が女性なんです。その人に会いましたら、いや、実は不思議なことがわか
ったんですよと言うから、どうしたって言ったら、今まで幾ら作業をやっている人を
教育して、そしてハンダづけ不良をなくそうということをやって学校をつくって、そ
してその学校でカリキュラムを与えてみんな手でつけさせて、そして不良をなくする
ということをやったけれども、どうしても不良がなくならない。それは作業員のミス
だと思っていたと。ところがあなたのところのハンダを持ってきてやったら全部不良
がなくなっちゃったんだ。それは今まで考えられなかったことなんだと。だから今ま
での考え方が間違っていたということが、もう20年か30年やってきて今やっとわかっ
たんですよという話をしてくださった。ですから、その話をよくするんですよ。だか
らハンダづけがうまくいかないと一番簡単な結論は、つけている人が悪いというふう
な処理をするから、いつまでたってもなくならないんですよと。悪いハンダを使って
いて、そして悪い結果が出るのは当たり前じゃないですか、ということ。それからも
う1つ、先ほどロッキードで採用してくださったんですが、そのときにロッキードの
人がミルの規格をとりなさいと。アメリカで売るのにはミルというのはアメリカの海
軍の規格なんで、先ほどのベル研と同じように厳しい規格なんです。それをとらない
とアメリカで売ることができないからと。うちはミルの規格で試験をしたから、その
データをつけて、推薦文をつけてあげるからアメリカの軍へ申請しなさいと。そして
申請してそれがとれたんです。


9.NASAから注文が

大分前にアメリカのスペースシャトルが打ち上げのたびに打ち上げ停止になる。
それは何万個というハンダづけする個所があるわけですね。
それを打ち上げの10日前ぐらいから始めて何人もたくさんの人がかかってテスターを
当てながら電気がちゃんと流れているかという検査をするんです。そうすると流れて
いないところがいっぱい出るんです。それをみんな手直ししていた。手直しして全部
が万全だということになって初めて打ち上げするわけです。それが大変な手間だった
ものですから、アメリカのNASAが、アメリカのジェット推進研究所というのがあ
り、そこに依頼して、今世界じゅうに出ているハンダの一番いいハンダを推薦してく
れていたんです。それで、そこのアメリカの海軍の規格でRMAという一番うるさい
規格がある、そのRMAをとっている規格が世界で8社ありまして、そしてその8社
のハンダを全部取り寄せて試験したら、私のところがずば抜けていいということで採
用が決まった。そして、アメリカへ行っていたらNASAから注文が出たよって言っ
て電話がかかってきたんですよ。ところが大変恥ずかしいことにNASAって言われ
て、そのとき僕はわからなかったんですよ。NASAって一体何だろうかという表情
をしたわけです。だれか女の子がNASAってスペースシャトル打ち上げているとこ
ろと違うかしら。そうしたら「毎日新聞」がその記事を書いて、そのときアルミット
にはワーッという歓声が上がったといって書いたんですよ。けどそうじゃないと。
だれも歓声を上げなかった。恐ろしいと思った。あれに使われて、もしスペースシャ
トルがとんでもないところへ飛んでいったらどうなるか。うちの会社、潰れるんじゃ
ないかと思ったというのは、そのころの正直な感想だったんです。そして、今、私の
ところのハンダっていうのは値段が高いので有名なんです。今のロッキードで使って
くれるということが決まったときに、アメリカから電話がかかってきて、ロッキード
で見積り出せと言ったんだけれども幾らの見積り出したらいいかって言ってきたんで
す。そうしたら今までアメリカの航空機業界を全部抑えていたと。ケスターは幾らで
出していると言ったら、これこれだと。じゃ、ケスターの6倍の値段を出しなさいと
言った。そんな値段出して売れるかと言われた。売れるか売れないか出してみないと
わからないよと。それで6倍の値段で出して、今でも6倍で売っているんですよ。


10.5倍の値段で売っている

日本では、ある有名な会社があって、そこが1キロ900円で売っている。うちはそれ
を4,500円で売っている。5倍の値段で売っているんです。ところが5倍の値段でも
買ってくれるんです。何で買ってくれるかというと、ハンダの使用量が半分で済むん
ですよ。そうしたら2.5倍でしょう。5倍の値段でも。そして、なおかつハンダづけ
する時間が今までのハンダの半分で済むんです。半分で済むとハンダよりも工賃の方
がはるかに高いんですよ。はるかに高いから5倍の値段でも実際のトータルコストは
安くつくんです。それをきちんと計算してくれる会社は買ってくれるんです。ある会
社でうちのハンダを使っているところを見せてくれた。その人は重役で品質管理の専
門家でハンダの専門家なんです。そうしたらその人が流れているところを見て、そし
て課長を呼んでこいと言って呼んできたんです。そして、すぐラインをとめさせた。
そしてそこで言った。どうして君はここにAという会社のハンダとアルミットのハン
ダと同じ工程で流しているのかと。ところが言われた人はわからないんですね。それ
は何かというと、うちのハンダはそのハンダに比べてつける時間が半分で済むんです。
そうしたら流れるところを2倍の速さにできるわけです。そうするとたった1つ、半
分の速さでしか流れないものを入れたら、その速さに合わせなければいけないんです。
そうすると全部遅くなる。1つでも遅いものを混ぜたんだったら、何のために速くハ
ンダづけできるものを入れているか全く意味がないんだよ。ですから、私もよくいろ
いろな工場へ行って、実際に作業をやっているところを見ると、まず女性が多いかど
うか見るんです。工員なんかは女性の方が給料が安い。それから若い人を入れている
ところはやはり給料が安いんですよ。そうすると、そういう安い給料の人を使ってい
るところの方がもうけが大きいんですよ。そしてもうかるところは絶えず工場を広げ
られるんですよ。広げるたびに新しい人を入れるから、新しい人たちがたくさん並ん
でいるんです。そうすると私も見て、ああ、ここは大変もうかっているな、とわかり
ますし、人を入れかえているからこの工場はだんだん大きくなるなと思うから、一生
懸命ハンダを売込みするんです。そういうことで、ハンダづけする時間は短いという
ことと、それからハンダを使う量が少ないということは大変なことなんですよね。
今、新しいハンダの動きが出てきまして、アメリカから入ってきているんですけれど
も、要するに鉛を使わないハンダに変えないといけない。衛生上の問題があるんで変
えなければいけないということが、アメリカとかヨーロッパから入ってきて、日本で
もそれにどういう対応するかということがけんけんかくかくとしてなってきているん
です。私どもにとっては、それがどの程度かということがなかなかわからないんです。
例えば大分前にカドミを使ったらいけないという問題があって、アメリカが大変騒い
だんです。そして、いつもそれが選挙に絡んでいるんです。今カドミなんか使ったら
いけないっていうことをアメリカは一言も言っていないです。だから鉛を含んだハン
ダを使ったらいけないということを言われているけれども、それがどこまで本当なの
かということがわからない。そして鉛を使ったハンダというのは非常に悪いんです。
そうすると今の鉛すずのハンダ、鉛を使っているハンダですらいろいろな不良がたく
さん出ているのに、これで鉛を使ったらそれをどういうふうにして乗り越えることが
できるだろうかということが、私どもとしては非常に問題があるんですよね。


11.ISOより厳しい品質管理

それと、皆さんおやりになっている会社の方、多いと思うんですけれども、ISOと
いう規格があるわけですね。みんなISOの規格を取り上げて、一生懸命やっておら
れるんでそれに水をかけるようなことを言うのは大変失礼なんですけれども、最近私
がある会社に行きましたら、門のところにISO何とか達成記念セールというのがか
かっているんです。それで僕は社長に会ったときに、社長さん、本当に失礼な話をお
聞きするんですけれども、ISO達成なさったのはいいけれども、ISOを達成して
不良がなくなったですか、という話をしました。そうしたらそばにおられた技術部長
2人とも、うん、そう言われれば1つもなくならないなということを言っているんで
す。それがわからないんですよ。ISOというのはそういう不良をなくするために考
え出されているもんだと思うんですよ。ところが日本の大手の会社でも、ISOを達
成しない会社から物を買わないと言っているんです。みんながそういうとみんなそう
やるんですよ。いいとか悪いとかっていうことではないんです。だから最近トヨタが、
私のところの会社はISOに重きを置かない。なぜなら程度が低いっていうことを言
っているわけです。それは新聞に公表になったんです。ですから、私のところはIS
Oについてもやってはいるんですが、うちで言うのは何かっていうと、うちはISO
よりはるかに厳しい品質管理をやっていますということなんです。それほど品質管理
の厳しい管理をやってますし、うちで売っているハンダは全部保険を掛けている。そ
して、海外も国内も売って、もしそのハンダで事故が起こったときには補償しますよ
という体制をとっている。だけどISOでは、そういう保険を掛けようということは
言っていないように思うんですけれどもね。それから例えばある時期、日本でも海外
へ行ったらいいということが盛んに言われて、私どもと同業のハンダ屋さんもみんな
中国だとかマレーシアだとかいろいろなところに出て、工場を建てているんです。
ところがみんな赤字ですよ。そして、日本の黒字を持っていっているんです。ですか
らかつてアメリカが不況だったときがありますね。そのときは何かといったら、全部
工場が外国へ出ていったんです。そして、外国へ出ていって何をしたかというと、給
料が全部国内で払われなくなったんです。外国で給料を払っているから。それでアメ
リカはそれに気づいて、そしてベンチャーを奨励して、補助金とか税金を免除して国
内産業の育成をやったんですよ。ところが日本でも、この間も韓国の人が話をしてい
ましたけれども、ベンチャーっていうと特殊な技術を持って、少ない人数でもうける
もんだと思っている人が多いっていうわけです。だけどそうでなしに、今一番よくわ
かるじゃないですか。これだけいろいろな企業がよくなってきたと言っているでしょ
う。そのよくなっている企業の大半は工場は日本にないんですよ。まったくない会社
だってありますよ。みんな海外へ出ていっている。そうするとみんな給料を現地の人
に払っているんです。国内に金が戻ってこないんです。お金を使う人がないですよね。
景気はよくなったって言っているけれどもお金が国内に落ちないんです。だから何と
かして、本当の意味でベンチャーを奨励して、そして国内にお金が落ちるようにしな
いと本当のいい日本の経済というのはできないんじゃないかなっていうことを私、今
もいつも思っているんです。1つもよくならない本当の原因はお金を外国に、向こう
の人には悪いけども、ぼんぼん放っていることも大きな要因を占めているんではない
かなと思うんです

QA項目へ戻る

ホームへ


Copyright(c) 2000.2.山口県中小企業団体中央会. All RightsReserved.
Plan , Authoring & Design :山口県中小企業団体中央会
Last updated on 2000.12.27